解説・評論
8.122021
東証市場区分の見直しの衝撃
東京証券取引所は、来年4月をもって市場区分の見直しを行い、現在の市場区分をプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに再編成することとなった。この再編成の理由であるが、かねてから東証の市場区分(一部、第二部、マザーズ、JASDAQ)のコンセプトが曖昧であり、特に市場一部が真にわが国を代表する成長が期待できる優良企業のグループになっているのかについて疑問が呈されていた。現時点の上場企業3,787社の市場区分を見ると、一部2,190社(58%)、二部472社(12%)、マザーズ379社(10%)、JASDAQ696社(18%)、東京プロ50社(1%)と逆ピラミッド状態となっている。この現象は、上場企業の最終目標が一部入りであること、退出基準が甘いためいったん一部に位置付けられると、たとえ継続的な成長がなくても経営破綻や深刻な財務危機にでも陥らない限り、一部資格が維持されることに帰せられる。過去は輝いていたが、現在ではほとんど成長もせず、株主からのROE要求にも十分に応えられない企業が、漫然と一部の地位に安住していると海外の投資家からは批判されていた。こうした現状に危機感を抱いた東証と金融庁が、東証の国際的な地位確保のため市場区分の見直しに踏み切ったのは当然であろう。
新市場区分の数量的な基準(流動性、経営成績、財務状況)は、極めて常識的なものであり、それほど驚くようなものではない。それよりも大きなインパクトを持つのは、ガバナンスの質に関する要求基準である。ガバナンスに関しては、コーポレートガバナンス・コード(CGC)の遵守内容が市場区分条件と連動していて、特にプライム市場企業に対しては相当にハードルが高いものとなっている。CGCは本年6月に2回目の改訂が行われたが、その特徴は、いわゆる“サステナビリティ”に関する取組み(SDGs、ESG、気候変動リスク、人権尊重、従業員の健康・労働環境への配慮、公正適切な処遇、公正・適正な取引、自然災害等への危機管理等)を、特にプライム上場企業に求めていることである。またプライム市場企業には、過半数の独立社外取締役を必要に応じて選任することも求めている。プライム市場は、「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据え続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」であるから、国際的な潮流に合わせた取組みが求められるのである。
こうして見ると、プライム市場は従来の一部市場とは性格が異なることが理解できる。一部上場なのだから当然にプライム市場に移行するはずだと考えることは、会社を誤った方向に導くおそれもある。高い水準のガバナンスに加え、株主に対して、事業戦略、成長戦略を明確に発信し、実績を上げられるかが問われるのである。(井上泉)