解説・評論

テレワークは従来型労働に代わりうるか?

2020年に入って新型コロナウィルスが世界中に猛威をふるっている。わが国でも4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発出され、4月17日には全国に拡大、さらに5月7日以降も継続されることが決まった。多くの企業が自主休業状態となり、従業員はいわゆるテレワークで勤務を行うことが要請されている。情報通信技術を活用した仕事のやり方を総称してテレワークと言っているが、特に在宅勤務の場面で場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能となると評価されているようだ。そして、テレワークによって「対面」や「紙」を重視する日本の働き方が、コロナ後大きく変わるとする論者もいる。しかし、【通勤-事業所での労働-退勤】という従来型労働形態においても必要に応じテレワークは行われていたのであるが、その労働の一プロセスであるテレワークをもって業務のやり方や労働形態ががらりと変わりうるかは大いに疑問である。なぜなら収益を上げるためにどの種類の業務とプロセスがテレワークに転換できるのかという根本的問題が企業ごと事業ごとにほとんどと言って良い程整理されていないからである。そしてテレワークによって変化が求められる個人と企業等との間の労働関係、テレワークを支える技術、機器、環境、コストへの目配りもほとんど見られない。

現在のテレワーク熱は、ある日突然事務所や工場に出勤することができなくなり、自宅待機を余儀なくされたことから始まっている。しかし、この自宅待機は従業員の意思に基づくものではなく、企業や組織の指示によるものであるから、従業員としては仕事をしなくとも賃金は当然受領できると考える。しかし、企業からすると自宅待機は感染症拡大防止の政府の要請にもとづいたもので、企業の都合ではないから従業員への休業補償の義務について疑問が生じる。もし「使用者の責めに帰すべき事由」(労基法26条)ではないなら、企業が現在の自宅待機者(就業規則どおり所定時間労働しない者)に対し賃金を支払い続けることの正当性が問題となる。天災的事態のもとでも従業員に給与を支払い続けることは、経営者の思想としては立派だが、すべての経営者に要求できることでもない。この問題を回避するために、あたかも自宅でも従来型勤務と変わらない仕事ができるかのような前提をおき、それをテレワークと称しているのが、今のテレワークの実相であろう。テレワークが真の意味で、従来型労働形態に替わりうるには極めて高いハードルが存在する。それはテレワークによっても「価値の創造」が可能で、企業活動の源である利潤を生む売上を伸ばし続けられるかという問題である。

企業の存在理由はドラッカーが言うように、社会にモノとサービスを顧客の満足のいく形で提供することである。テレワークが従来型労働形態に替われるためには、テレワークによって「価値の創造」が可能で、企業活動の源である収益を出し続けられることが絶対条件となる。そのためには、【企画・開発-ものとサービスの生産-販売】という不変の事業サイクルにおいて、どの種類の業務とプロセスがテレワークに転換できるのかという根本的課題を企業ごと事業ごとに整理していかなければならない。そしてテレワークによって変化が求められる個人と企業等との間の労働関係、テレワークを支える技術、機器、環境、コストへの考察も必要である。現在世界各国で景気が落ち込み、失業率が増加している。工場や店舗を閉鎖し、ものをつくらず、出勤せず、人とのふれあいもなくネット空間だけで経済社会が維持できるとは誰も考えないであろう。テレワークに関してもっと地に足が着いた論議を期待したい。

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